北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり


Vol.23 民間療法は地域資源(2011年3月号)

遠友・いぶき「健康自給率向上の実技講座」

  

 公益財団法人秋山記念生命科学振興財団(秋山孝二理事長)では、北海道発の新しい公共の担い手を育成し、分野横断的な課題に対してネットワークを形成して課題解決に取り組むプロジェクトを支援する「ネットワーク形成事業」を2008年度から実施している。助成期間は3年。現在6つのプロジェクトを支援している。各プロジェクトの代表者と秋山理事長の対談の第3回は、遠友・いぶき「健康自給率向上の実技講座」の大沼芳徳さん。(聞き手/ISM編集長・堀武雄)

 

健康を維持するためにできることは自分で


 ――「健康自給率向上の実技講座」では、福岡在住の気功家・山部嘉彦さんを講師に迎え、2ヵ月に1回のペースで講座を開催しています。3年間の成果はいかがですか。

 大沼 受講を年間予約して3年間通いつめた人が15人、1回ずつ参加しほぼ毎回参加している人も入れれば約20人、その他に一見さんが数人います。その中にはすでに教室を持っている人もいて、講座で習得した技を自分の教室の生徒さんに伝えています。その生徒さんの中から山部さんの話を聞きに来た人もいたり、そこからまた周辺へと広がりを見せています。また、医療関係者も参加しています。具体的には、小さなお子さんを持つお母さんが受講していて、子供が夜ぐずったりしたときに技を施すと夜泣きが納まったり、身体に痛みがあって整形外科に通いレントゲン検査しても原因が見つからず、「(痛みと)上手に付き合っていきましょう」と言われて痛み止めと湿布を続けていた人が、施術を受けてすっかり痛みが消えたという例もあります。いわゆる統合医療や伝統的な民間療法、あるいは健康向上に役立つ養生の仕方は、今のような医学が発達していない時代には、それぞれの地域にあったと思うんです。それは地域の資源です。日本だけじゃなく、東洋、アジアにはあまり知られていない資源がたくさんあるはずです。科学的根拠を問われたら証明はできないかもしれませんが、論より結果。それにより患者さんの痛みが和らぎ、生きる希望を見出せればいい。気功というのは科学者・研究者から見れば怪しい、胡散臭いものに見えるかもしれませんが、当講座に来ている方々は気功によって実際に子供のぐずりが納まることを経験しています。すべてを病院、医者に頼るのではなく、健康を維持するために自分たちでできることは自分たちでやろうというのがこの講座の趣旨です。

 

西洋医学と民間療法が同じプラットホームに


 ――こういうプロジェクトを助成するのは秋山財団だけですね。

 秋山 公的助成ではまず無理です。エビデンスを出せ、報告書をきちんとしろ、と。

 大沼 その意味で秋山財団ネットワーク形成事業は、大変ありがたい助成です。特に3年という助成期間がプロジェクトの質をまったく変えていくと思いました。単年度では助成金をもらえてラッキーだった、で終ってしまう。3年間の半ばくらいから「次ぎはどうしよう」という意識が働くようになります。

 秋山 研究者のスタンスとして、政策や制度に組み入れるには全国一律にしなければならない。ですから汎用性・一般性のあるガイドラインが必要です。しかし、人間の健康というのは極めて個別的なことですから、自分の生きる力を自分で確認しながら健康を維持していくというものがあってもいい。新興宗教などのいかがわしいものは、それによって勢力を拡大しようという方向性があるからいかがわしくなるのであって、この命に関して信念を持ってやる限り何の問題もない。それに気づかせる手立てはもっとあっていいと思います。生命科学を突き詰めると、倫理や宗教あるいは霊的なものが出てくるし、非常に得体の知れない部分があります。民間の試みですから、そういうものがあってもいい。全部が今の医療に取り込まれていくはずもないだろうと思います。遠友・いぶきの講座は、いろいろなアプローチや今後の展開が考えられますし、それがネットワークの多様性なんだと思います。

 ――医療関係者も参加していますね。

 秋山 そこが重要ですね。西洋医学と民間療法が対立する構造にではなく、両方がプラットホームの上に並立している。

 大沼 山部さんはすでに九州大学医学部と協働していますし、現在、代表を務めていただいている五輪橋産科婦人科小児科病院の丸山淳士先生は、もう10年以上前に山部さんと出逢って意気投合している。秋山財団さんの助成事業だということで、当時の札医大学長が講師に来てくれたりもしました。そういうことが相乗的に良い方向に作用したんだと思います。

 秋山 助成金の使い途としてはやはり旅費交通費や滞在費ですか。

 大沼 山部さんがもっと近くにいてくれれば回数を増やすこともできたかもしれませんが、福岡在住ですのでやはり旅費に使う部分が多くなります。山部さんは札幌出身で、実家がありますので、滞在費は要らないと言って頂いています。

 秋山 ネットワークを構築する場合、電話やメールという手段もありますが、やはり最初はフェイス・トゥ・フェイスでの切り結びが必要です。あるいは人材育成に必要なのは人件費。ところが公的助成制度には、交通費、人件費に助成金を使えないものが多い。

 

筋診断の自主研究会発足

受講生が習得した技が財産


 ――3年間の助成期間が終ります。受講生の中には、まだ山部さんの話を聴きたい、教えを請いたいという人もいらっしゃると思いますが、今後の活動はどうなりますか。

 大沼 何らかの形で続けたいと思っています。2年目の終わりころ、筋診断の自主研究会がスタートしました。4〜5時間の本講座が終った後、筋診断に特化した研究会が、本講座とはまったく切り離した形で行われています。筋診断というのは、筋肉にある筋、経絡です。例えば肩こりを治すのに足の裏に色シールを貼る。それで身体の調子が劇的に変わるんです。それを自主的に研究しようという会が本講座からの暖簾分けのような形でできました。肩こりなのに足の裏に色シールを貼る、あるいは紐でもいいんですが、そう聞くといかにも胡散臭いかもしれませんが、実際に体調がよくなる。生命体はそれほど微妙なものなんです。卑近な例で言うと、通りを曲がったときに向こうから嫌だなと思っている人が来ると気分が悪くなる。逆に絶世の美女が現れたら気分が明るくなる。理屈ではないんですね。筋診断はややマニアックですが、論より証拠。実際に効果がある。小さい子供にお母さんが「今日はこの服を着ていきなさい」と言っても子供が嫌がることがあります。その子なりに何かを感じているんだろうということです。それは尊重しなければだめです。色に関わることについては、気分と言えば気分なんですが、できるだけ尊重してほしい。そういうことも筋診断の裾野にはあります。

 それから、2010年末に山部さんの著書『自然治癒力講義』(洋泉社、3800円+税)が出版されました。山部さんは、3年間の講座をやりながらいろいろ身に付いてくることもあったし、新しい発見もあったということで、そういうことも本に盛り込んでいるそうです。3年間の成果としては、受講生の記憶や身体にしみ込んだ気功や筋診断の技が財産としてありますが、この本もその成果の一つだと思います。


 
 

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