北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり


Vol.20 農業の多面的価値を発見(2010年9・10月号)

 十勝農業イノベーションフォーラム


 公益財団法人秋山記念生命科学財団(秋山孝二理事長)では、北海道発の新しい公共の担い手を育成し、分野横断的な課題に対してネットワークを形成して課題解決に取り組むプロジェクトを支援する「ネットワーク形成事業」を2008年度から実施している。主眼は人材育成とネットワーク形成。助成期間は3年で、現在、6つのプロジェクトに対して助成を行っている。今回はその中から、十勝農業イノベーションフォーラム(代表・鈴木善人リープス社長)の取り組みを紹介する。(文責・堀武雄)

 

 

堆肥による土壌への炭素還元

「十勝の大地が地球を守る」


 十勝農業イノベーションフォーラムは、農業の本質的価値、感性価値を含む多面的価値を理解し、共有するプラットフォームの形成を目的に活動している。農業の本質的価値、多面的価値とは何か。一般に農業は、農産物を生産し、消費者に届けることに価値を見出されている。だが、食料生産と流通だけが農業の価値だろうか。

 同フォーラムでは、「十勝の大地が地球を守る」をテーマに掲げている。例えば、農業土壌への炭素蓄積による地球温暖化の防止。農業が本来持っている価値とは異なるが、そこに価値を見出す基盤を作ろうとしている。

 化学肥料以前の農業は、堆肥を入れることで土壌に炭素を還元していた。近代化とともに化学肥料が堆肥に取って代わり、土壌の炭素は減り続けている。北海道は畑地面積が大きく、家畜頭数も多いので、家畜排泄物で堆肥を作り、大量の炭素を還元することができる。堆肥を積極的に土壌に入れることで地球温暖化に役立てると同時に、地力も維持できる。

 例えば北海道に来る大勢の観光客は、来るときに大量の二酸化炭素を排出している。そのオフセットとして土壌への炭素還元を考え、そこに価値が見出せれば、CSRとして事業化できるのではないか。そんな構想を抱いていた。

 だが、現実に事業化するのは難しい。土づくりや耕畜連携、有機的農業についての理解がなければ、机上の空論になってしまう。

 

農業を感じるアースカフェ


 そこで同フォーラムでは、まず農業を学ぶのではなく、感じてもらうため、アースカフェを開催することにした。

 生産者は農協を中心とした農業セクターの中にいて、消費者との接点は少ない。一方、消費者は、大半が農業に無関心。関心があるのは商品価格だけ。農産物を消費者に届ける流通は、安いことだけに価値を見出す。農産物を商品として扱った結果だ。

 そこで、生産者と消費者が顔を合わせる場を提供することで、生産者と消費者の間の垣根をなくし、「畑」をキーワードとする場を共有すること。それがアースカフェの狙いだ。そこから最初のイノベーションが始まるかもしれない。

 昨年度までに6回のアースカフェを開催。田んぼや畑で、農家が「私はこういうことをやっています」と説明する。農業の現場に赴き、農家の話を聞くことで農家の臭いや土の感触を感じる。農業生産の現場を感じることで、食卓から畑へと想いを馳せるようになる。

 農家と消費者が分断されていることで見失われがちだが、農業は我々の暮らし、食生活・食文化に根差したものだ。そのことを改めて認識しなおすことで、新しい価値を見出し、イノベーションを起こそうというのが同フォーラムの目指すところだ。

 

農業に根を張るプラットフォーム


 代表の鈴木善人さんは、

「生産者と消費者をあえて相対する立場と考えず、地域に住む人として食べ物を育む畑を共有し、農業を身近に感じることが大切です。その上で、土壌への炭素蓄積も意味を持ってきます」

 と語る。アースカフェは、今年度も引き続き開催する予定。同フォーラムは、ブックレットなどで活動内容の周知を図り、本来の目的である土づくりへ向けた活動にも取り組む。

 「農業への関心が高まり、さまざまな活動が行われていますが、農業の本質を理解しない活動は、上滑りになってしまいます。私たちは、農業に根を張っていただけるようなプラットフォームを構築したい。そしてこのフォーラムがさまざまな活動の結節点、ハブになれればいいと思います」(鈴木さん)

 アースカフェはその第一歩。分断された生産者と消費者を結ぶきっかけとなる。同じ地域の住人として、気軽に訪問でき、話し合える関係が理想だ。

 同フォーラムでは、今年度、アースカフェの開催促進のほか、プラットフォーム・メンバーの充実、ブックレットやホームページなどでの情報提供などを行う。また、助成期間は今年度で終了するが、来年度以降へ向けて、農業の本質的な価値に根差したプラットフォームづくり、農業に関するさまざまなネットワークのハブ提供、アースカフェをプラットフォームの機能とすることなどに取り組み、ネットワーク形成事業終了後の事業継続につなげる。


 
 

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