北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり


Vol.13 世界の先住民族と交流(2010年1・2月号)

世界先住民族ネットワークAINU

 2008年7月、日高管内平取町で開催された「先住民族サミット」をきっかけに世界先住民族ネットワークAINU(代表・萱野志朗さん。略称WIN‐AINU)が発足した。「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の政策実現という大きな目標を掲げ、来年カナダで開催予定の先住民族サミットをサポートするほか、世界の先住民族とのネットワークを生かし、権利回復への活動を行っている。

 

先住民族同士の連携重視

各国の会議にも積極参加


世界11ヵ国から24の先住民族が集い「先住民族サミット」アイヌモシリ2008が開催された。このときの実行委員会を中心としたネットワークを生かし世界の先住民族とのネットワークを戦略的に生かすための日本側の窓口となると同時に、アイヌや旧琉球王国国民、海外から移住してきた人々など国内の先住民族を糾合し、「国連宣言」の実現を目指す。

 今年度は、昨年の先住民族サミットを記念して平取町でキャンプを実施したほか、海外で開催される先住民族問題を話し合う会議などの催しに参加。また、ほぼ毎月、先住民族問題を中心とする勉強会を開催している。

 海外での会議に積極的に参加しているのは、先住民族同士の連携を重視しているためだ。各国の先住民族の権利回復に向けた活動から学ぶことも多い。今年度は、7月に第44回女性差別撤廃委員会(アメリカ・ニューヨーク)、8月に第2回国連先住民族の権利に関する専門機構会議(スイス・ジュネーブ)、9月にはAIO/AMOアンバサダープログラムに参加。WIN−AINUで会計を務める島崎直美さんはこのうち女性差別撤廃委員会とAIO/AMOアンバサダープログラムに参加した。

 

指導者育成プログラムにアイヌ民族が初めて参加


 AIO/AMOアンバサダープログラムとは、アメリカ先住民族(AIO)とニュージーランドの先住民族マオリ(AMO)が共同で実施している指導者育成プログラム。今年はニュージーランドのアオテアロアで行われた。WIN‐AINUからは島崎さんのほか、島田あけみさん、沖津翼さんの計3名がオブザーバーとして招かれ、丸10日間をアメリカ、ニュージーランドの先住民族の若者たちと共に過ごし、ニュージーランドにおける先住民族政策などをつぶさに学んできた。

 その中でもっとも特徴的なのは、開かれた民族教育のあり方だ。ニュージーランドでは、幼児教育を行うプレイセンター、初等教育過程を担うプライマリースクール(5〜11歳)、中東教育課程を担うインターメディアスクール(8〜1213歳)、セカンダリースクール(131418歳)、高等教育過程を担うユニバーシティ、ポリテクニクス、ティーチャーズカレッジなどがあり、日本で言えば幼稚園から大学までのすべての教育課程をマオリ語だけで受けることができる。これらの学校の運営にはそれぞれの卒業生が参加しているという。

 教育の成果もあって、マオリ語は広く社会に浸透しており、マオリ族によるマオリ語だけを使用する放送局や雑誌などのメディアも豊富にある。これらはマオリ族だけのメディアではなく、テレビもすべてのニュージーランド人が見ることができる。このため、白人の子どもとマオリの子どもがマオリ語で会話するという風景も当たり前のように見られるという。

 また、土地に関する権利も広く認められており、マオリの土地を利用して事業を行う場合、地代の一定割合を地元のマオリに寄付し、それが民族教育などに使われている。さらに、企業にもマオリが参加し、様々な産業を企業経営者とマオリ民族が協力して発展させていく姿勢が広まっている。

 一般に、先住民族への差別や偏見は多くの場合、経済的な困窮と相互に影響し合っていることが多いが、マオリの経済に対する考え方が常に発展的で現実的な効果をもたらしている。そのことがマオリの権利回復に大きな役割を果たしているようだ。

 

マオリ民族が勝ち取った先住民族としての権利


 政治においてもマオリの権利が認められている。ニュージーランド議会は一院制で、選挙制度は小選挙区比例代表連用制を採用している。有権者(18歳以上のニュージーランド国籍保有者と永住権保有者)は小選挙区票と政党票に2票と投じる。2005年の総選挙(定数121)では62の小選挙区に加え、マオリ市民の議席を保証するためマオリ選挙区として7区が加えられ、69選挙区が設けられた。その結果、マオリ党は4議席を獲得。2008年の総選挙(122議席、内小選挙区70議席)では5議席に伸ばしている。

 ただ、これらのマオリの権利は、ただ統治権力から与えられたものではなく、ニュージーランドの先住民族としてマオリが長い年月をかけて国と話し合い、土地の返還、伝統文化を残すための施設を設置するよう国に求めてきた成果だ。

 WIN‐AINU東京事務局次長の島田あけみさんは、

「期間中、出席者全員がマエラという集会所に一つの家、一つの家族として布団を並べ、皆で寝泊りしました。その中で自分の家族や仕事の話をし、マオリの踊り(Toia)などの練習も皆で行いました。打ち解けて和やかな雰囲気で1週間余りを過ごしました。民族同士の友好に大いに有意義なものだと思いました。私たちアイヌも日本の先住民族として国と話し合い、マオリと同様にアイヌ語や刺繍などのアイヌ特有の文化を次世代に残せるように活動していきたいと強く思いました」

 と語る。同じく東京から参加した沖津翼さんは、

「マオリの人たちの印象は、先祖から高いレベルのしっかりとした教育を施されてきたのだろうと強く感じました。そして経済界、政界、社会にかなり進出していることにも驚きました。農業、水産、土地権利、マネジメントなどかなりの規模で活動していて、学校教育もすばらしいものでした。あらゆる面に民族の文化を張り巡らし次世代に伝えていく考え方はとても勉強になりました。これからの自分の生活と向きあいながらアイヌ社会に対して自分なりの取り組みを始めていこうと考えています。将来、アイヌ語で話し学べる学校を作りたいと思います」

 と感想を述べている。

 なおWIN−AINでは、随時学習会を開催しており、1月16日午後6時から札幌エルプラザで先住民族の権利回復学集会として講師に辻康夫氏を招き、法律に関して学ぶほか、小野有五氏、結城幸司氏を講師としてアイヌエコツアー「アイヌ民族の冬の暮らし」について学ぶ。また220日午後3時から平取町二風谷の萱野観光事務所において、萱野志朗氏を講師に先住民族権利回復学集会「言語教育」を開催。翌21日には平取シシリムカ文化祭を鑑賞する。

 また、2月には会報『マウコピリカ通信』第2号を発行する予定だ。

 

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