北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり


Vol.8 各国の先住民族と連携(2009年8月号)

世界先住民族ネットワークAINU


 世界先住民族ネットワークAINU(代表・萱野志朗さん)は、昨年のG8サミット直前に平取町・札幌で開催された先住民族サミットの実行委員会が母体となって発足。2010年カナダで開催されるG8サミットに合わせて予定している第2回先住民族サミットを支援するとともに、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」批准国において先住民族の権利が保障されるよう働きかけることを主たる目的としている。(文責・堀武雄)



先住民族サミットから世界ネットワークへ


 昨年7月1日、日高管内平取町に世界22ヵ国から26の先住民族が集まり「先住民族サミット」アイヌモシリ2008が開催された。「環境」をテーマとしたG8各国、とりわけ議長国である日本政府に世界の先住民族の声を届けようと計画されたもの。国連の先住民族問題常設ゴーラム議長のヴィクトリア・タウリ・コープスさんをはじめ、延べ2100人が参加。「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を受けた「二風谷宣言」と「日本政府への提言」を採択して4日間の日程を終えた。
 このときの実行委員会は11月30日に解散したが、先住民族サミットを支えた実行委員会のネットワーク(そこにはアイヌだけでなくシサム=和人も大勢参加していた)と人材を失うのはいかにももったいない。サミットに集まった世界の先住民族とのネットワークも生かしたい。そう考えた秋辺日出男さんが新しい組織を提案、実行委員会をそのまま生かした形で「世界先住民族ネットワークAINU」が誕生した。


「国連宣言」を実現して先住民族の権利を回復


 「当面の目標の一つは2010年カナダでのG8サミットに合わせて第2回先住民族サミットを開催すること。今度はカナダの先住民族が中心となり、私たちはサポートに回ります」(秋辺さん)
 だが、これは当面の目標に過ぎない。組織として目指すのは、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の政策実現だ。先住民族サミットに集まった世界の先住民族とのネットワークを戦略的に活かすための日本側の窓口になると同時に、日本国内に住む先住民族を糾合し、一致団結して「国連宣言」の実現を目指す。
 日本における先住民族はアイヌだけではない。旧「琉球王国国民」や外国から日本国内に移住している先住民族もいる。これらの先住民族がネットワークに加わり、「国連宣言」を批准した国々で先住民族の権利が保障されるよう働きかける。そのため海外の先住民族とネットワークを結び、「国連宣言」の批准の促進と進捗状況の監視、情報交換・交流・相互支援を進めていく。
 国内外のネットワークを活かした活動はすでに始まっている。日本ではあまり報じられていないが、今年6月5日、南米ペルーのパグアで地下資源開発に反対し道路封鎖をしていた先住民族(アフワン民族・ワンピス民族)に対し警察隊が武力行使、多数の犠牲者が出た。「世界先住民族ネットワークAINU」では、6月11日付けで「武力の行使や暴力では、このような問題は解決されず、先住民族が培ってきた叡知によって解決されることを望みます」との声明を出し、ペルー大統領、首相、在日本ペルー大使館、地元紙『エル・コメルシオ』などに送付した。この事件をBBCなどで報じたジャーナリスト、ベン・パウレスさんはカナダのモホーク民族として昨年の先住民族サミット参加者の一人だ。このように世界の先住民族はネットワークを広げつつある。
 世界先住民族ネットワークAINUは、アイヌ民族を中心に、アイヌでない国内メンバーと、海外の先住民族をネットワークするプラットフォームだ。G8先住民族サミットや海外の先住民族を支援するだけでなく、アイヌ民族、特に若い世代のアイヌからの文化発信を積極的に行い、アイヌ民族の権利回復に関する提言活動を行う。国内においては、多数を占めるアイヌでない人々と、少数者であるアイヌとが協働すること、世界の先住民族と緊密な連携を図ることで、公平で平等な社会の実現に向けた効果的な運動を展開する。


「アイヌは先住民族」
国会決議はほんの1年前


 日本ではG8洞爺湖サミットを1ヵ月後に控えた昨年6月6日、衆参両院において「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が全会一致で採択され、日本政府も受け容れた。これを受けて政府内に「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が設置され、この7月29日には最終報告書が官房長官に提出される。
 アイヌ民族が強く求めていたアイヌ政策の根拠となる立法化は、素案段階では触れられなかったものの、6月の懇談会で最終報告に盛り込むことで合意。だが、政策の実現や法案の内容、制定時期等については今後設置される審議会や国会・政府内の議論に委ねられる。
 日本の先住民族政策は、ここまでなかなか進展していない。アイヌが先住民族であることを国が認めたのも正式にはほんの1年前。先住民族としての権利回復にはほど遠い現状と言わざるを得ない。
 世界先住民族ネットワークAINUでは、国内の先住民族政策の進展を監視するとともに、海外の先住民族との連携を図りながら国連宣言の批准、実現に向けてネットワークを活用していく。国際会議などへの出席もその一つ。今年度もジュネーブ、ニュージーランドにおける会議への参加を予定しており、秋山財団ネットワーク形成事業の助成金が活かされている。
 なお、世界先住民族ネットワークAINUでは、昨年の「先住民俗世ミット」アイヌモシリ2008の報告集を頒布している。申し込みは世界先住民族ネットワークAINU事務局(〒061‐2285札幌市南区藤野5条6丁目17‐1、電話090・2056・0272 FAX011・593・0655)まで。1冊2500円。


 

inserted by FC2 system