北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり


Vol.7 現場から食卓を考える(2009年7月号)

十勝農業イノベーションフォーラム第4回アースカフェ


 十勝農業イノベーションフォーラム(代表・鈴木善人さん)では、去る5月23日、北竜町のナチュラルファーム黄倉(代表・黄倉正泰さん)で第4回アースカフェを開催、市民ら40人以上が参加し、田植え体験やご飯・有機栽培のホウレンソウを試食、生産者の話に耳を傾けた。テーマは有機農業。生産者と市民の間には、有機農業のイメージに微妙なギャップがある。そのギャップを縮め、相互理解を深めるのが今回のアースカフェの目的だ。(文責・堀武雄)





コメの有機栽培は草取りがすべて


 ナチュラルファーム黄倉は、約15haの農地のうち水稲14haを栽培している。そのうち約4・5haが有機JAS栽培、そのほかの田んぼも化学肥料を少量、除草剤を1回散布するだけの減農薬減化学肥料栽培に取り組んでいる。
 田植え体験はときおり雨がぱらつく生憎の空模様の中、有機JAS栽培の認定を受けた田んぼで、ゆきひかりの苗を植えた。田植えは初めてという人がほとんど。就学前の子どももいて、「冷た〜い」「こわ〜い」と歓声・嬌声・泣声が飛び交っていた。
 30分ほど田植え体験を楽しんだ後は、納屋でご飯やホウレンソウの試食。数種類のコメを食べ比べることができ、オニギリやご飯を何回もおかわりする人もいて、賑やかな食事風景が繰り広げられた。
 ホウレンソウは、栗山町で有機栽培に取り組んでいる金丸農園(代表・金丸公雄さん)で収穫されたもの。ゲストの金丸さんは、25年前から有機栽培に取り組んでいるおり、ミニトマトを主力に、水菜、ホウレンソウを栽培している。
 ご飯とホウレンソウを食べながら案内人・黄倉さん、ゲスト・金丸さん、二人の生産者の取り組みに耳を傾けた。
 黄倉さんは、
「農薬と化学肥料を使わないコメづくりで何が大変かと言いますと、1に草取り、2に草取り、3、4がなくて5に草取り。私の田んぼは風通しがいいので、病気や害虫は農薬に頼らなくてもいいのですが、稲以外の草がいくらでも生えてくるので、それをどうやって抑えるか。妻や母親、手伝ってくれる60〜70代のおばさんたちのお陰でなんとかできています。そのほか、びっくりドンキーを経営するアレフさんの『ふゆみずたんぼプロジェクト』に参加し、イトミミズを活用して草を抑える方法も勉強しています」
 金丸さんは、
「スーパーの店頭に並んでいるホウレンソウは、30pの規格に合わせるため、まだ成長途中で収穫してしまいます。だから吸収した硝酸態窒素が残っていて苦味やアクになる。最後まで成長させてあげてから収穫すると、苦味やアクのない、甘いホウレンソウができます。だからナマで食べられるんです。もともと種には発芽し、双葉を出し、本葉を出す力があります。だから私は余計なことはしません。種が育つ環境、良い土を作ってやるだけです。肥料もボカシもすべて自分で作っています。それは堆肥の中身が自分でわかるからです。また、できるだけお客様に安く買っていただくためです。買えば20s6000円する堆肥も自分で作れば2000円でできます。有機栽培はゆっくり効きます。時間をかけて基本を作るんです。化学肥料を使う農業が西洋医学なら、有機農業は言わば漢方なんです」


規格に合わせて収穫
それが美味しさを損なう


 参加者からの質問も相次いだ。
「有機栽培の場合、収量はどうですか」
「化学肥料を少し使うと生育が早く進みます。稲の場合、短い北海道の夏に身体を大きくした方が収量が増え、品質も良くなると言われていて、化学肥料は稲に向いていると思います。有機ですと8〜9割の収量になってしまいます」(黄倉さん)
「葉物には虫が付きやすいと思いますが、その対策は?」
「極力虫の少ない時期に作っています。夏場はミニトマトを栽培していますから、冬の間に水菜、ホウレンソウを作る。ホウレンソウは寒冷地向けの作物で、氷点下10℃以下でも大丈夫です」(金丸さん)
「ホウレンソウの規格の話がありましたが、農家さんが美味しいものを食べてもらいたいと考え、消費者も美味しいものを食べたいと思っているのに、そうなっていません。どうすれば消費者に美味しい食べ物を買ってもらえると思いますか」
「ホウレンソウの長さ30pという規格はスーパーの利幅がいいサイズなんだそうです。しかし30pにするには成長途中で収穫しなければなりません。私のところのホウレンソウは、味本位で行きたいので、わざと3ヵ月じっくり育てた50pのホウレンソウを出しています。生鮮市場に『これで売ってみてくれ』と言ったら『お客さんが付きました。これが本来の味なんですね』ということになりました。ですから、お客さんが選ぶようにして下さい。30pのではなく50pのホウレンソウを買いたい、と言ってください。消費者のみなさんが動くことが流通を変えることになると思います」(金丸さん)


「有機農業」のイメージ
生産者と市民にギャップ


 一般に有機栽培というと、無農薬無化学肥料なので「安全」で「美味しい」というイメージがある。参加者からの質問も安全性に関するものが大半を占めた。だが、農薬や化学肥料を使う慣行農業でも、残留農薬が検出された事例はほとんどない。残留農薬により健康被害が生じた例は皆無と言っていい。農薬がポジティブリスト化されて以来、用量や使用法がマニュアル化され、農家も厳格にそれを守る習慣ができあがっている。その意味で有機農業であれ慣行農業であれ、安全性に大きな違いはない。むしろ少量の化学肥料がコメの品質を高めることもある。
 一方、JAS法で定められている有機認定基準は、一年生の作物の場合、3年間、農薬・化学肥料を使わない圃場で栽培されたものとされている。栽培のプロセスに関する基準であって、収穫した作物の品質については何の規定もない。高品質の野菜を生産できる農場もあれば、そうではない農家もある。有機農業は生産物の品質を保証するものではないのだ。
 生産者が考える有機農業と、市民がイメージする有機農業の間には、微妙なギャップがある。十勝農業イノベーションフォーラム代表の鈴木善人さんは、
「農家を十把一絡げに語ることはできません。だからこそ、生産者と市民が互いに理解し合う場が必要です。アースカフェをそういう機会としていきたいと思います」
 と語っている。



 

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