北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり

Vol.6 民間企業と生産者による持続可能な特産品ブランド化計画(2009年6月号)

北のお魚.net


モデルは「増毛のリンゴ」


 日本全国に特産品≠ニ呼ばれるものは数々あるが、ビジネスとして継続的に利益を上げているのはごく一部。道内にも一村一品≠竍道産推奨品≠ヘ多いものの、生産者への恩恵はほとんどない。北のお魚.netは、生産者らと小規模なネットワークを構築し、特産品のブランド化、加工、販売を目指す。最初に手掛けたのは「増毛のリンゴ」だ。(文責・堀武雄)



生産者と小規模商工業がネットワークを形成する


 北のお魚.net代表の山口真佐美さんは、Iターン公募に応募し、6年間、四国愛媛で第3セクターや自治体の嘱託職員として、地域活性化(特産品開発・販売)に携わった経験を持つ。その経験の中から、行政に依存するのではなく、地域の小規模生産者と核になる地方都市の小規模商工業者が小さなネットワークを作り、それぞれの専門分野で作業を分担すれば上手くいくのではないか、と考えるようになったという。
 地域活性化に携わる中で山口さんが感じた生産者側の問題点がいくつかある。
 1、情報発信が弱かった
 2、目先の収入を重視しなければならず、長期的な展望を持てなかった
 3、従来の考え方から脱却できなかった‐新しい切り口が見出せなかった
 4、労働力が不足していた‐IT化に乗れなかった
 5、行政頼みの体質だった
 6、昔からの古い考え方や地域のしがらみが根強くあった
 7、流通を無視した価格設定
 8、リスクを負うことができなかった
 一方、行政側の問題点は、
 1、生産者の意識に違いがあり、全体で高いレベルに到達するのに予想以上の時間と努力が必要だった
 2、担当者に異動があり生産者との関係が継続せず、経緯を熟知した担当者が不在になることがあった
 3、初期調査が終わった段階で手放す事業が多く、せっかくオペレーションリサーチなどがされていても、販路ができた段階で手放される。一番大切な実際に販売してのテストリサーチまで面倒を見てくれるケースはほとんどなかった
 行政が手を抜いていた訳ではなく、なかなか上手く行かなかったということだ。例えば、公平性を重んじる行政の立場から、努力して高品質なものを生産している生産者も、そうではない生産者も、同等に扱わなければならない。その結果、同じ地域の同じ特産物でも品質に大きな差が出ることになる。
 山口さんは、「それを白日の下にさらけ出し、消費者がどんな消費行動をとるのかを調べ、生産者に返すことで生産者が意識を改善してくれたら、どんなに良いだろう」と思った。が、それは小さな町村では至難の業。また、特産品≠ヘ、地域の道の駅などで売られることはあっても、それ以上のものにはならず、高品質の特産品ができても、価格設定が甘かったり、数量が確保できないなど、流通に乗りにくいことが多かった。消費者の評価は、生産者にとって大きな励みや喜びとなるが、しっかりと利益を上げなければ、ビジネスとして継続することは難しい。

大通地下街で即売会

1週間で100万円


 山口さんが株式会社北のお魚.netを立ち上げたのは、こうした課題を生産者と一緒に解決し、特産品をブランド化して持続可能なビジネスモデルを確立する方法を模索するためだ。
 最初に手掛けているのが「増毛のりんご」だ。「増毛のくだものをもっと有名にするぞプロジェクト」と称して、JA南るもい(増毛果物)、増毛町果樹協会の協力により、各種りんごや洋ナシ、プルーンなどを販売している。増毛の特産品と言えば甘エビが有名だが、増毛が日本の果樹産地の北限であることは余り知られていない。増毛の果樹園は、昼夜の寒暖差が大きく水はけの良い暑寒別岳の麓にあり、良質の果物が実る。
 昨年10月、札幌大通地下街の札幌商工会議所マーケティングスペースで「増毛りんご」即売会を開催。1週間で100万円を売り上げた。
「丸井今井やきたキッチンに買物に来たお客さんが流れて来たようです。買っていただいたお客さんが口コミで知り合いの方を連れて来てくれたり。最初はバラ売りだったのですが、最後には箱で買っていくお客さんもいました」(山口さん)
 東京・有楽町の北海道どさんこプラザでも即売会を開催したが、こちらの評判は今一つだったという。蜜が入って甘く硬いりんごを好む東京の消費者の口には、北海道の甘酸っぱいりんごは合わなかったようだ。
 今後に向けての課題もある。農産物には旬があり、生食で美味しく食べられる時季には限りがある。「増毛のりんご」ブランドを広めるには、一年を通して消費者にその名前に親しんでもらう必要がある。それには「増毛のりんご」の名前を付けた加工食品が求められる。(この部分をトル=道立食品加工研究センターとともに商品化を模索中だ。)
 秋山財団「ネットワーク形成事業助成金」は、生産者のリスク負担を回避するために使われている。販売にかかる出張費などの経費を生産者に負担させる訳にはいなかい。かと言って、ブランド化もビジネスモデルも未だ成就していない段階で北のお魚.netが負うには重すぎる。そこに助成金が活かされている。

 

 

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