北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり

Vol.3 “健康”で地方を元気に(2009年3月号)

健康自給率向上の実技講座


 「遠友・いぶき」は、福岡在住の気功家・山部嘉彦さんをメイン講師として「健康自給率向上の実技講座」を隔月で開催している。地域医療が崩壊の危機に直面している現在、自らの健康を自ら獲得し維持する方法を学び、実践し、周辺に伝えて行こうというこの講座、医学・スポーツ学・古武道家ら多彩なゲスト講師を招き、「健康お世話好き」を増やしている。





20年培ってきた健康の身体技法を次の世代へ


 「健康」は現代人の最大の関心事。だが、地域の医療は崩壊の危機にある。一方、その「健康」でさえ医師任せ・健康食品任せの風潮がある。自らの健康を自ら守る意識が乏しい。その中でどう健康を維持していくのか。
 札幌出身の山部嘉彦さんは気功家として20年のキャリアを持ち、健康維持の技を磨いてきた。その身体技法を多くの人に習得、習熟してもらい、地域の健康指導者として経済活動ができるようにする。医療とも連携しながら自分たちの健康を維持する人を増やす。それが「健康自給率向上」の意味だ。
 「遠友・いぶき」の幹事を務める学校法人総合技術学園理事の伊藤誠夫さんは、山部さんの施術により健康を回復した経験を持つ。
「私は腰が悪かったんです。体に歪みがあった。足の長さが左右で異なっていました。山部さんは筋肉の張り方を診て身体の調子を整えます。左右にひねったり、つぼに磁石を当てるだけで身体の調子が一変します。これを繰り返して治りました」(伊藤さん)
 3年前、札幌に山部さんを招き「ハイパーレッスン」と銘打って市民向けの気功教室が開いていたが、1年で頓挫。福岡―札幌の空間的な距離が交通費という形で大きな障害になった。しかし、山部さんの身体論を基本にした気功や経絡を活かした体調の整え方などを身近に何度も見て、実際に簡便な身体調整法で体調が驚くほど改善された経験を持つ伊藤さんは、この身体技法を少しでも多くの人に知ってもらいたい、と思っていた。山部さんも20年にわたって培ってきた身体に関する知識、技術を「次の世代に伝える責務がある」と思っていた。
 秋山財団のネットワーク形成事業による助成は、旅費・宿泊費・会場費・ホームページ作成などに使え、山部さんを札幌に招き、連続実技講座を開催するのにぴったりだった。事務局を預かる月刊誌『しゃりばり』編集長の大沼芳徳さんは、「秋山財団の助成がなければ実技講座の開催は初めからあり得ないことでした」と語る。


自立する個人・地域
健康分野で人材育成


 「健康自給率向上の実技講座」の主目的は、「健康分野」で自立できる個人、地域の育成を手伝える人材すなわち「健康お世話好き」の育成にある。社会問題化している医療体制崩壊を防ぐため、市民レベルで市場メカニズムすなわち健康教室の主宰により社会に貢献する流れが生まれることが期待され、その前提として、健康指導員自らが健康である必要がある。実技講座の初年度はそれが出発点となった。
 講座では、メイン講師の山部さんによる実技に先立ち、多彩なゲスト講師を招き、講演を行っている。初年度6回のゲスト講師と、山部さんによる実技講座のテーマは以下の通り(敬称略)。
 【第1回】08年7月13日
ゲスト/五輪橋産科婦人科小児科病院名誉理事長・丸山淳士、実技/骨盤編「男の頑固な便秘と女の尿漏れ」原因は骨盤周辺の筋肉、人体の衰え〜腰を鍛え直す技あり
 【第2回】9月13日
ゲスト/伝統日本薬局からさわ薬局代表・唐沢豪貴、実技/背骨編「猫背と顎だし」原因は老婆への道を無意識に歩むため〜背、肩の柔軟性を取戻す技あり
 【第3回】11月8日
ゲスト/札幌医科大学学長・今井浩三、実技/アタマ編「眉間の皺とへの字口」原因は老人坂への転落の無自覚さ〜ボケ撃退の技あり
 【第4回】09年1月10日
ゲスト/札幌JRタワーオムニ歯科院長・斉藤成彦、実技/内蔵編「肋骨の下に内臓脂肪」原因は中高年の「ま、いいか」生活〜胴体を捻る技あり
 【第5回】3月14日
ゲスト/札幌大学講師・束原文郎、実技/免疫・自律神経編「ツバが出ない干乾び」原因は生命活動低下への無抵抗〜心身の敏捷性を取戻す技あり
 【第6回】5月9日
ゲスト/札幌大学準教授・瀧元誠樹、実技/総集編「故障する前の修理」原因は内存するエネルギーの転寝〜心身の野生を取戻す技あり
 受講料は年間2万円、1回の参加料は5000円。


「理想は地方が元気なこと」
その最初の一歩は「健康」


 「健康自給率向上の実技講座」のもう一つの動機は、疲弊する故郷≠ノある。
 「小樽、函館、釧路、旭川、岩見沢。例外なく、さびれきっているという印象を受けます。昭和30年代の北海道は基幹産業がしっかりしていました。しかし、それは官業、公共事業という下支えがあっての繁栄だったのです。それから30年の間に札幌が一人勝ち。北海道の辺境には希望のカケラもない状況となりました。札幌に一極集中して北海道全体にいいことがあるのか。東京に一極集中して国全体としいいことがあるのか。理想は、国として一体感があり地方が元気なことです」
 と山部さん。その最初の一歩は地方に暮らす人が健康であること。職場環境も家庭環境もこの30年で大きく変化した。足腰が非常に弱くなり、栄養過多・偏向が強まった。高齢化社会とともに医療体制は危機的状況にある。健康をつくっていくことが必要な理由がここにある。自分たちの力で「医者いらず」の成果を上げ、医師を本当に必要とする人たちに振り向けたい…。
 「健康自給率向上の実技講座」は秋山財団ネットワーク形成事業の助成を受けて3年間続けられる。
伊藤さんは「3年後、受講生による地域コミュニティの健康教室が誕生し、そこに集う人たちが地域内、仲間内で互助関係を持ってもらえれば大成功。その道具に山部メソッドが役立てば、この講座の主目的を果たすことになります」と語っている。

 

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