北海道発 秋山財団ネットワーク形成事業「新しい公共」の担い手づくり


Vol.2 大雪・やんばるの天然林を守れ(2009年2月号)

伐採・環境攪乱が森林生態系及び生物多様性に及ぼす影響評価


 「日本森林生態系保護ネットワーク」(略称・CONFE、代表・河野昭一京都大学名誉教授)は、全国の自然保護団体11団体で構成され、森林生態系・生物多様性の保護・保全のために活動している。事務局を担う市川守弘法律事務所の弁護士・市川守弘さん、ナキウサギふぁんくらぶ代表の市川利美さんに活動状況を聞いた。




多様な生態系を支える天然林が壊滅的状況に


 「日本の天然林は今、壊滅的状況にあります」
 市川守弘さんは危機感を募らせる。日本には、本来、沖縄の亜熱帯林から北海道の亜寒帯林まで多様な天然林があった。本州では、広島にわずかに残っている天然林にツキノワグマの独立した個体群が生息しているが、そのほかは大半が杉の植林地になってしまった。残り少ない天然林が沖縄と北海道にある。やんばると大雪山系。やんばるにはヤンバルクイナ、ノグチゲラ、オキナワトゲネズミ、ケナガネズミ、ヤンバルテナガコガネなど、大雪山系にはシマフクロウ、クマゲラ、オオワシ、クマタカなどの希少種、絶滅危惧種が生息している。天然林はそうした多様な生態系を支えているのだ。
 「今、森を守れるかどうかの瀬戸際にあります」と市川さんは言う。やんばるでも大雪でも国有林が皆伐を行っているのだ。CONFEは、まずそれを止めさせようと活動している。
 だが、皆伐に反対するにしても、ただ「止めろ」というだけでは説得力に欠ける。伐採する前の天然林がどれほどの価値を持っているのか、その天然林を皆伐したらいかに森が劣化するのか、森だけでなく、そこに住む動物、河川環境にどのような影響があるのかを科学的に調査する必要がある。それが「日本列島の原生的森林において、伐採・環境攪乱が森林生態系及び生物多様性に及ぼす影響評価」だ。
 CONFE代表を務める河野さんは植物生態学の専門家。そのほか、動物生態系の専門家、自然保護団体の学芸員、市民活動家らが参加して、やんばる・大雪で調査を進めている。天然林における安定した自然を調査する一方、伐採後の森の劣化状況を比較しながら3年間にわたって調査する。
 全国から専門家を集め、初年度となる08年度はこれまで、沖縄で4回、北海道で3回の現地調査を実施。6月28日には札幌で国際シンポジウム「救おう!森のいのち 考えよう!森の未来」を開催した。


国立公園内で60haを皆伐
森が死ねば川も海も死ぬ


 大雪山系、上士幌町幌加の大雪国立公園内での皆伐が明らかになったのは07年。台風による風倒木処理を名目に、林野庁がおよそ60ha、山一つ丸々皆伐したのは05年で、跡地にトドマツを植林している。
 3回の調査でわかったことは、土壌層が破壊されていることだ。河野さんは、「土壌層には多数の生物がおり、種子もたくさん埋蔵されている。土壌層の破壊は森林再生に致命的」と指摘。「森が死ねば川が死に、海が死ぬ」と語る。市川さんは、「森林管理所は伐採跡地に緑が回復してきた、という。しかし、そこに繁殖しているのはハンゴンソウやエゾイチゴばかり」という。本来そこにあった森には、コケも生え、高山植物もあったはず。ハンゴンソウはエゾシカが食わないため、猛烈な勢いで繁茂する。外来種が入ってくる可能性もある。本来の天然林とは異質な場所になりつつある。植林したトドマツも根付かずに枯れている。「それを緑の回復≠ニは言わないのです」(市川さん)。それを経年的に調査して明らかにすれば、伐採がいかに森にダメージを与えるかが明らかになる。3年間のプロジェクトなので、同じ地点にプロットをとり、森がどう再生していくのか、検証する。すぐ近くに天然林が残っており、それが比較対象になる。
 ナキウサギふぁんくらぶの市川利美さんは、「台風の後処理という理由で天然林を皆伐して、残っていた若木も植林のために切ってしまい、土壌層も滅茶苦茶にしてしまっています。植林したのも針葉樹だけ。しかも根付かないで枯れている。森の再生に必要な母樹も若木も伐採し、植林さえすればいいというやり方が本当にいいのでしょうか」と訴える。


秋山財団の助成により生態系守られる可能性が


 秋山財団のネットワーク形成事業では、旅費・宿泊費も助成対象となる。CONFEの調査には、北海道、広島、京都、東京などから専門家が参加しており、その旅費、現地での車での移動、宿泊、自動カメラなどの調査器具が必要になる。市川利美さんは、「秋山財団の助成がなければこの調査は不可能でした。難しい手続きもなく、しかも3年間継続できる。1年間では十分な調査はできません。森林保護にとっては非常に有意義な助成です」。市川守弘さんは、「秋山財団の助成のお陰で、北海道のクマゲラやオオタカ、沖縄のヤンバルクイナやノグチゲラ、ケナガネズミが守られる可能性が出てきました」と語っている。

 

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